老化と健康を考える「フレイル」と「オーラルフレイル」
23.09.07(木)
老化と健康を考える上での重要なキーワード「フレイル」と「オーラルフレイル」
こんにちは。今日は高齢者の健康に関わる非常に重要なキーワード、「フレイル」と「オーラルフレイル」について深掘りしてみたいと思います。これらの概念は、私たちが考える「健康寿命」や「QOL(生活の質)」に密接に関わるものです。
フレイルとは
フレイルとは:加齢に伴う脆弱性の理解
1. フレイルの背景 フレイルは、高齢者特有の健康状態を指す概念として近年医学界やケアの現場で重視されています。特に、都市部の高齢化が進む中、健康寿命の延伸や高齢者の自立支援が大きな社会課題となっているため、フレイルの理解は非常に重要です。
2. 生理的脆弱性とは フレイルの中核をなす「生理的脆弱性」とは、加齢や慢性疾患により、身体の複数の機能が次第に低下していく状態を指します。この低下は、日常生活の中での転倒リスクの増加や、疾病の発症、入院やリハビリテーションの必要性、さらには死亡へのリスク増大といった具体的な問題を引き起こすことが知られています。
3. フレイルの主な指標とその詳細
- 筋力の低下
- 加齢に伴い筋肉量が減少する現象は「サルコペニア」と呼ばれます。特に太ももの筋肉が著しく減少すると、立ち上がる動作や歩行が困難になる可能性が高まります。
- 歩行速度の遅さ
- 歩行速度は、身体の全体的な機能や健康状態を反映する指標とされています。特定の距離を歩くのにかかる時間が増加すると、フレイルのリスクが高まるとされています。
- 疲れやすさ
- 日常の活動で疲れやすくなることは、身体のエネルギー代謝や心肺機能の低下を示唆している可能性があります。
- 活動量の低下
- 一日の大部分を座ったまま過ごす、あるいはベッドで横になって過ごす時間が増えると、筋肉や骨の機能低下が加速します。
- 無意図的な体重減少
- 食欲不振や摂取量の減少、消化の問題などが原因となり、栄養状態の悪化が体重減少を引き起こすことがあります。これは、身体の筋肉量や骨密度の低下を招きます。
これらの指標は、それぞれが身体の異なる側面を示すものであり、3項目以上該当する場合には、全体的な健康リスクが高まると考えられ、フレイルとしての診断が一般的に考えられます。
オーラルフレイルの概念
オーラルフレイル:口腔の健康と生活の質をつなげる概念
1. オーラルフレイルとは? オーラルフレイルは、口腔内の健康状態や機能の低下を示す概念で、これが全身の健康や日常生活の質に影響を及ぼすリスクを意味します。フレイルが身体の脆弱性を指す一般的な指標であるのと同様、オーラルフレイルは口腔の脆弱性にスポットを当てた概念として考えられます。
2. オーラルフレイルの主な指標とその詳細
- 嚥下機能の障害
- 口腔の筋肉の弱化や感覚の低下、病気などの影響で、食物や液体の嚥下が困難になることがあります。これにより、誤嚥や誤飲のリスクが増大し、肺炎の発症リスクも上昇します。
- 摂食障害のリスク増加
- 歯や歯ぐきの問題、咀嚼・嚥下困難が原因で、食事の摂取が適切に行えない状態が生じます。これが長期化すると、全身の栄養状態が悪化し、身体機能の低下や疾病の発症リスクが増加する可能性があります。
- 咀嚼機能の低下
- 歯の喪失、顎の筋力の低下、歯の状態の悪化などが原因となり、食物を適切に咀嚼できなくなります。咀嚼の重要性は、消化の初めのステップであるだけでなく、認知機能や社会参加にも関係しているとの研究結果があります。
- 口の中の痛み
- 歯周病、虫歯、口腔内炎、口腔がんなどの疾患が原因で口の中に痛みを感じることがあります。この痛みは、食事の摂取や話すこと、笑うことなど日常生活の質に大きく影響する可能性があります。
- 唾液の減少
- 薬物の副作用、加齢、特定の疾患などにより、口の中が乾燥しやすくなることがあります。唾液は口腔内の清潔を保つ役割があり、その減少は虫歯や歯周病のリスクを増大させます。
- 舌の筋力の低下
- 舌の筋肉の衰えは、話す、食事の嚥下、味覚の変化など、さまざまな影響を及ぼします。
これらの指標は、高齢者の口腔健康の重要性を浮き彫りにしています。オーラルフレイルを理解し、適切なケアや予防策を講じることで、高齢者の生活の質の向上や全身の健康の維持・向上に寄与することが期待されます。
なぜこれらの概念が重要なのか
フレイルおよびオーラルフレイルの重要性とその背後にある理由
1. 生活の質(QOL)との深い関連
フレイルやオーラルフレイルの状態が進行すると、その影響は単に身体的な機能の低下だけに留まりません。日常の楽しみ、社会参加、心の健康など、生活の質(QOL)全体に影響を及ぼす可能性があります。特に、食事を楽しむことは私たちの生活の中で重要な役割を果たしており、オーラルフレイルによる摂食困難は心の健康にも影響を及ぼす可能性があります。
2. 栄養状態への影響
オーラルフレイルの状態では、嚥下や咀嚼の困難により食事の摂取が難しくなります。これにより、タンパク質やビタミンなどの必要な栄養素の摂取が不足し、全身の筋肉量の減少や免疫力の低下を招きます。栄養不足は、高齢者において疾病のリスクを増加させる要因ともなりえます。
3. 全身の健康との密接な関係
口腔の健康は、驚くべきことに心血管疾患や糖尿病といった全身の疾患とも関連があります。歯周病の細菌が血液を介して全身に広がることで、心臓や血管に炎症を引き起こす可能性が指摘されています。また、口腔の健康状態は糖尿病のコントロールにも影響を与え、逆に糖尿病は口腔の健康状態を悪化させることも知られています。
4. 予防・早期発見の重要性
これらのリスクを考慮すると、フレイルおよびオーラルフレイルの早期発見は極めて重要です。初期の段階での介入により、その進行を遅らせる、または改善することが期待されます。定期的な健康診断や口腔内のチェックを通じて、初期の兆候を見逃さないようにすることが大切です。
まとめ
まとめと未来への展望
老化は避けられない自然なプロセスですが、私たちがこの進行をどのように受け入れ、対応するかが、健康寿命をどれだけ延ばせるかを決める鍵となります。近年、老化研究の中で「フレイル」と「オーラルフレイル」は大きな注目を集めています。
1. フレイルとオーラルフレイルの重要性
身体の全体的な脆弱性を示す「フレイル」と、口腔の健康を中心にした「オーラルフレイル」は、どちらも高齢者の日常生活の質や健康状態に深く関わっています。これらの状態を理解し、早期に対策を講じることは、疾病のリスクを低減し、自立した生活を継続するために不可欠です。
2. 未来の研究と展望
フレイルやオーラルフレイルに関する研究は日々進行中で、これからも新しい発見や治療方法、予防策が期待されます。特に、早期発見や予防に関する取り組みは、高齢者の健康維持や医療費の削減に寄与すると考えられます。
3. 健康情報の普及とその重要性
これらの知識を広く普及させることは、高齢者だけでなく、若い世代にとっても重要です。若い段階からの予防策の取り組みや生活習慣の見直しは、将来の健康寿命の延長に大きく寄与するでしょう。
今後も私たちは、高齢者の健康をサポートするための最新情報や研究結果を皆様にお伝えして参ります。私たちの情報が、皆様の健康で充実した毎日の一助となることを心より願っております。
帯広 歯科 歯学博士 歯科医師 いしかわ歯科
医院長 石川