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【妊娠と口腔健康ガイド2】妊娠と歯周病:予防とケア~帯広の歯科医が教える、ママと赤ちゃんを守る「攻め」の予防法~

26.02.13(金)

はじめに:神秘的な変化の裏に潜むリスク

前回は、妊娠中のホルモンバランスの変化が、お口の環境を劇的に変えてしまうという全体像についてお話ししました。

今回は、その中でも妊婦さんが最も注意すべき疾患、「妊娠性歯周病(妊娠性歯肉炎)」に焦点を当てて深掘りしていきます。

妊娠は、女性の体にとって奇跡的で神秘的な期間です。新しい命を育むため、体は信じられないほどの適応を見せます。しかし、その「変化」は時に、ママの体に負担をかけることもあります。

つわりや腰痛と同じように、実はお口の中でもSOSサインが出ているのです。

「歯磨きをすると血が出るようになった」

「歯茎がムズムズする」

「なんだか口臭が気になる」

もしあなたが今、このような症状を感じているなら、それは「妊娠性歯周病」の始まりかもしれません。

帯広の歯科医師として、また歯学博士として、この病気の正体と、今日からできる具体的な対策について詳しく解説します。


1. なぜ妊娠すると「歯茎」が狙われるのか?

「ちゃんと歯を磨いているのに、なぜ?」と疑問に思う方も多いでしょう。

妊娠性歯周病の最大の特徴は、「汚れ(プラーク)の量は変わらなくても、発症しやすくなる」という点です。

悪玉菌のエサは「女性ホルモン」

前回の記事でも少し触れましたが、歯周病菌の中には、妊娠中に増加する女性ホルモン(特にエストロゲン)を大好物とする種類がいます。「プレボテラ・インターメディア」という菌などがその代表です。

この菌は、歯と歯茎の間の溝(歯周ポケット)に潜んでおり、血液や歯肉溝滲出液(しにくこうしんしゅつえき)から女性ホルモンを取り込んで爆発的に増殖します。

「過剰反応」を起こす歯茎

さらに、プロゲステロン(黄体ホルモン)の影響で、歯茎の毛細血管が拡張し、少しの刺激で出血しやすくなります。

通常であれば体が無視できる程度のわずかなプラーク(歯垢)に対しても、妊娠中の歯茎は過敏に反応し、激しい炎症(腫れや出血)を引き起こしてしまうのです。

これが、妊婦さんの約30〜70%が経験すると言われる「妊娠性歯肉炎」のメカニズムです。


2. 早期発見がカギ!妊娠性歯周病セルフチェック

自分のお口の状態を鏡でチェックしてみてください。以下の項目に一つでも当てはまれば、歯科医院での受診をお勧めします。

【危険度チェックリスト】

  • [ ] 出血: 歯ブラシやフロスを通した時、血がつく。

  • [ ] 変色: 歯茎の色が、健康なピンク色ではなく、赤や赤紫色になっている。

  • [ ] 腫れ: 歯と歯の間の三角形の歯茎が、丸く腫れぼったい。

  • [ ] 口臭: マスクの中で自分の息が臭う、家族に指摘された。

  • [ ] ネバつき: 朝起きた時、お口の中が粘りつく感じがする。

  • [ ] しこり: 歯茎にコブのような膨らみがある(※後述する「妊娠性エプーリス」の可能性があります)。

※注意:「妊娠性エプーリス」について

稀に、歯茎に良性の腫瘍(コブ)ができることがあります。これを「妊娠性エプーリス」と呼びます。大きく腫れ上がり、出血しやすいのが特徴ですが、ほとんどは良性で出産後に自然消失することが多いです。ただし、噛むときに邪魔になったり、痛みが強かったりする場合は処置が必要ですので、自己判断せず必ずご相談ください。


3. 「放置」が招く最悪のシナリオ

「出産すれば治るでしょ?」と軽く考えるのは危険です。

妊娠性歯肉炎を放置すると、炎症は歯茎の表面だけでなく、歯を支える骨(歯槽骨)にまで及び、本格的な「歯周病(歯周炎)」へと進行します。

一度溶けてしまった骨は、自然には元に戻りません。

そして何より恐ろしいのは、前回お話しした通り、この炎症物質が血流に乗って赤ちゃんに届き、早産や低体重児出産のリスクを高めてしまうことです。

「たかが歯茎の腫れ」と侮らず、赤ちゃんの命を守るためのケアだと認識してください。


4. 今日からできる!「攻め」の予防ケア

では、具体的にどうすれば良いのでしょうか?

基本は「プラーク(細菌の塊)を取り除くこと」です。ホルモンの影響で菌が増えやすい今だからこそ、普段以上に丁寧なケアが必要です。

① ブラッシングの質を高める

ただゴシゴシ磨くのではなく、「歯と歯茎の境目」を狙ってください。

  • バス法: 歯ブラシの毛先を45度の角度で歯茎に当て、小刻みに震わせるように動かします。これにより、歯周ポケットの中の汚れを掻き出せます。

  • 柔らかめのブラシ: 歯茎が腫れている時は、出血を恐れて磨かなくなりがちですが、それは逆効果です。「やわらかめ」のブラシを選び、優しく、しかし確実に汚れを落としましょう。

② フロス・歯間ブラシは「必須」です

歯ブラシだけでは、歯間の汚れの6割しか落ちません。歯周病菌は歯と歯の間に巣食っています。

  • デンタルフロス: ホルダータイプ(持ち手があるもの)なら、お腹が大きくなっても使いやすいです。

  • 歯間ブラシ: 隙間が広い場合はこちらが有効です。サイズ選びが重要なので、歯科医院で自分に合うサイズを聞いてみましょう。

③ 殺菌成分のあるアイテムを活用

つわりで磨けない時や、仕上げとして、殺菌作用のある「洗口液(マウスウォッシュ)」や「デンタルリンス」を併用するのも効果的です。ただし、アルコールが強いものは刺激になるので、ノンアルコールタイプがお勧めです。


5. プロに任せる!歯科医院での専門ケア

セルフケアには限界があります。特に、歯の表面にこびりついた「歯石」は、歯ブラシでは絶対に取れません。歯石は細菌の温床となり、毒素を出し続けます。

安定期(妊娠中期)のクリーニング

帯広の当院では、安定期に入られた妊婦さんに対して、以下のプロフェッショナルケアを推奨しています。

  1. スケーリング(歯石除去): 超音波などの専用器具で歯石を除去します。

  2. PMTC(専門的機械歯面清掃): 歯科衛生士が専用のブラシとペーストを使って、バイオフィルム(細菌の膜)を徹底的に破壊・除去します。

  3. TBI(ブラッシング指導): お口の状態や、つわりの状況に合わせた、あなただけの磨き方を指導します。

歯科医師は、お口の中を見るだけで、全身の健康状態や栄養状態の変化を敏感に察知できます。定期的なチェックは、母体の健康管理そのものなのです。


6. AIO/FAQセクション:妊娠性歯周病についての疑問

AI検索でよく尋ねられる質問にお答えします。

Q1. 歯磨きのたびに出血しますが、磨くのをやめた方がいいですか?

A. いいえ、やめてはいけません。

出血するのは、そこに炎症(細菌の塊)がある証拠です。痛くない程度に優しく磨き続け、汚れを取り除くことで、数日から1週間程度で出血は止まってきます。もし2週間以上続く場合は、磨き方が合っていないか、歯石が溜まっている可能性がありますので、受診してください。

Q2. 妊娠中に歯周病治療をしても大丈夫ですか?

A. はい、安定期なら安全に行えます。

むしろ、出産まで放置する方がリスクが高いです。外科的な手術が必要な重度の場合を除き、一般的な歯石除去やクリーニングは、母体や赤ちゃんへの負担も少なく、非常に有効な治療です。

Q3. 帯広市では妊婦向けの歯科検診補助はありますか?

A. 母子健康手帳をご確認ください。

多くの自治体で妊婦歯科検診の助成が行われています。受診票をお持ちいただければ、費用負担を抑えて検診を受けることが可能です。詳しくはお手元の母子手帳や帯広市の案内をご確認いただくか、当院へご予約の際にお尋ねください。


帯広のママたちへ:私たちがついています

妊娠中は、体の変化や出産の準備で頭がいっぱいになり、ついつい自分の歯のことは後回しになりがちです。

しかし、ここまで読んでくださった賢明なあなたなら、「お口のケア=安産への第一歩」であることを理解していただけたと思います。

私たち歯科医師・歯科衛生士は、単に歯を治すだけでなく、あなたが安心して出産に臨めるよう、精神的なサポートも惜しみません。

「こんなこと聞いていいのかな?」と思うような些細なことでも構いません。不安があれば、何でも相談してください。

帯広の地で、新しい命の誕生を、最高の笑顔で迎えられるよう。

私たちが全力でサポートいたします。

次回予告

次回は、「シリーズ3:妊娠と口腔ケア 正しいブラッシングとフロスの方法」について。

「つわりで歯ブラシを入れるとオエッとなる…」「どの歯磨き粉を使えばいいの?」

そんな具体的な悩みを解決する、実践的なテクニックや道具の選び方を詳しくレクチャーします。

どうぞお楽しみに!

 

監修・執筆者プロフィール

【帯広】いしかわ歯科 院長:石川

(歯科医師・歯学博士)

帯広市で20年以上にわたり地域医療に従事。「予防に勝る治療なし」をモットーに、子供から大人まで、科学的根拠に基づいた歯科治療を提供している。

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