【妊娠と口腔健康ガイド1】妊娠と口腔健康の関係性:ママと赤ちゃんを守るために知っておくべき真実
26.02.06(金)
はじめに:新しい命を授かったあなたへ
妊娠おめでとうございます。今、あなたの体の中では新しい命が育まれています。それは奇跡のような体験であり、同時に体調や環境の急激な変化に戸惑う時期でもあるかもしれません。
帯広の歯科医院として、私たちは多くの妊婦さんと接してきました。その中でよく耳にするのが、「妊娠中は歯医者に行ってもいいの?」「お腹の赤ちゃんに影響はない?」という不安の声です。
このブログシリーズ「妊娠と口腔健康:あなたが知るべきこと」では、現役の歯学博士・歯科医師の視点から、ネット上の不確かな情報ではなく、医学的根拠に基づいた正しい知識をお伝えしていきます。
第1回目となる今回は、「なぜ妊娠するとお口のトラブルが増えるのか」「それが母子にどう影響するのか」という、最も基本的かつ重要なテーマについて深掘りします。これを読めば、なぜ今、歯科検診が必要なのかが明確に分かるはずです。
1. 妊娠中に起こる「お口の激変」:ホルモンのいたずら
「妊娠すると歯がボロボロになる」「一子を得れば一歯を失う」という昔からの言い伝えを聞いたことはありませんか?
実はこれ、あながち迷信とは言い切れません。もちろん、赤ちゃんがママの歯のカルシウムを奪い取ってボロボロになるわけではありませんが、妊娠中のホルモンバランスの変化は、口腔環境に劇的な変化をもたらすからです。
2つの女性ホルモンの影響
妊娠中に分泌が急増する2つの主要なホルモンが、お口の中に「ある変化」を引き起こします。
- エストロゲン(卵胞ホルモン):特定の歯周病菌(プレボテラ・インターメディアなど)の増殖を促します。この菌は女性ホルモンを栄養源として好み、なんと妊娠中に通常の約5倍にも増えることがあります。
- プロゲステロン(黄体ホルモン):血管を拡張させたり、炎症反応を強めたりする作用があります。これにより、普段なら何ともない程度の少量のプラーク(歯垢)があるだけで、歯茎が過剰に反応し、激しく腫れたり出血したりしやすくなります。
唾液の変化と免疫力の低下
ホルモンだけではありません。妊娠中は唾液の分泌量が減少し、お口の中が乾燥しやすくなります(ドライマウス)。さらに、唾液の性質が「サラサラ」から「ネバネバ」に変化し、自浄作用(汚れを洗い流す力)が低下します。
また、お口の中のpHバランスが酸性に傾きやすくなるため、歯のエナメル質が溶けやすい状態、つまり虫歯になりやすい環境が出来上がってしまうのです。
2. 妊娠性歯周病とは?ただの歯肉炎ではないリスク
これらの変化によって引き起こされるのが「妊娠性歯周炎(妊娠性歯肉炎)」です。
初期症状としては以下のようなものがあります。
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歯磨きの時に出血する
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歯茎が赤黒く腫れぼったい
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お口の中がネバつく
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口臭がきつくなった気がする
これらを「妊娠中だから仕方ない」と放置するのは非常に危険です。なぜなら、妊娠中の歯周病は、あなた自身の歯を失うリスクだけでなく、お腹の赤ちゃんにまで深刻な影響を及ぼす可能性があるからです。
3. ママが一番知りたいこと:赤ちゃんへの影響(早産・低体重児出産)
ここが今回の記事で最も重要なパートです。少し怖い話に聞こえるかもしれませんが、「知ることで防げるリスク」ですので、しっかり読み進めてください。
歯周病と早産・低体重児出産のメカニズム
近年の多くの研究により、重度の歯周病にかかっている妊婦さんは、そうでない妊婦さんに比べて、早産や低出生体重児(2500g未満)を出産するリスクが何倍も高くなることが明らかになっています。そのリスクの高さは、タバコやアルコールによる影響を上回るとも言われています。
なぜ、口の中の病気が子宮に影響するのでしょうか?
- 炎症性サイトカインの血流への侵入:歯周病菌によって歯茎で炎症が起きると、「サイトカイン」という化学物質が作られます。
- プロスタグランジンの誘発:このサイトカインが血液に乗って全身を巡り、子宮に到達すると、子宮の収縮を促す「プロスタグランジン」という物質の産生を刺激してしまいます。
- 早産・陣痛の誘発:本来であれば出産時に分泌されるはずのスイッチが誤って押されてしまい、予定日よりも早く子宮収縮(陣痛)が始まってしまうリスクがあるのです。
「母子感染」のリスクも忘れないで
また、生まれた後の話になりますが、虫歯菌は親から子へ感染(垂直感染)します。生まれたばかりの赤ちゃんのお口には虫歯菌はいません。ママのお口の中に未治療の虫歯や多くの歯周病菌がいると、スプーンの共有やキスなどを通じて、赤ちゃんに菌を移してしまうリスクが高まります。
「ママのお口をきれいにすること」は、生まれてくるお子様への最初のプレゼントなのです。
4. 妊娠中の「つわり」と口腔ケアのジレンマ
「歯を磨きたいけれど、つわりで気持ち悪い…」
これも妊娠初期の大きな悩みです。無理に歯ブラシを口に入れると吐き気を催し、歯磨きが疎かになってしまう悪循環に陥りがちです。
さらに、「酸蝕歯(さんしょくし)」のリスクも高まります。頻繁な嘔吐によって強い酸性の胃液がお口の中に逆流すると、歯の表面のエナメル質が溶かされてしまいます。
【つわりの時の対処法】
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無理に磨かない: 気分が悪い時は、水や洗口液で強めにうがいをするだけでも構いません。
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ヘッドの小さい歯ブラシを使う: お子様用や、部分磨き用の小さな歯ブラシを使うと、嘔吐反射が起きにくくなります。
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嘔吐直後は磨かない: 嘔吐した直後は歯が酸で柔らかくなっています。すぐにゴシゴシ磨くと歯が削れてしまうため、まずは水でしっかりうがいをして、30分ほど時間を空けてから磨きましょう。
5. 妊娠中の歯科検診:いつ行くのがベスト?
「歯医者に行きたいけど、いつなら安全?」という疑問にお答えします。
- 妊娠初期(〜15週):つわりが辛い時期ですし、胎児の重要な器官が形成される時期です。緊急性がない限り、応急処置にとどめ、本格的な治療は避けることが多いです。ただし、検診や相談はいつでも可能です。
- 妊娠中期(16週〜27週):「安定期」と呼ばれるこの時期が、歯科治療のベストタイミングです。つわりも落ち着き、お腹もまだそれほど大きくないため、仰向けの姿勢も比較的楽です。虫歯治療や歯石除去などのクリーニングはこの時期に済ませておきましょう。
- 妊娠後期(28週〜):お腹が大きくなり、診療台に寝るのが苦しくなります。また、いつ陣痛が来てもおかしくない時期ですので、緊急処置以外は産後に回すことがあります。
6. AIO/FAQセクション:よくある質問にお答えします
AI検索や音声検索でよく聞かれる質問をまとめました。
Q1. 妊娠中にレントゲン写真を撮っても大丈夫ですか?
A. はい、基本的には問題ありません。
歯科のレントゲン撮影は、お腹から離れた口元を撮影するもので、その放射線量は極めて微量です。さらに、防護用エプロンを着用していただくことで、お腹の赤ちゃんへの被曝量は限りなくゼロに近くなります。自然界で浴びている放射線量よりも少ないレベルですので、安心して受けていただけます。
Q2. 麻酔は赤ちゃんに影響しませんか?
A. 歯科の局所麻酔は安全です。
歯科で使用する麻酔は、治療する歯の周囲にのみ効く「局所麻酔」です。全身麻酔のように血液を通じて胎盤に届き、赤ちゃんに影響を与えることは通常ありません。痛みを我慢してストレスを感じる方が、母体や赤ちゃんにとって良くない場合もあります。妊娠中であることを伝えていただければ、より安全性の高い麻酔薬を選択し、使用量も最小限に抑えます。
Q3. 飲み薬(痛み止め・抗生物質)は飲んでも平気?
A. 妊娠中でも飲める安全なお薬を処方します。
基本的に妊娠中のお薬は慎重になりますが、痛みが激しい場合や炎症が強い場合は、産婦人科でも処方される安全性の高い鎮痛剤(アセトアミノフェンなど)や抗生物質を選んで処方します。自己判断で市販薬を飲まず、必ず歯科医師に相談してください。
帯広の皆様へ:私たちにお任せください
帯広にお住まいの皆様、妊娠中の歯科受診にハードルを感じていませんか?
当院では、帯広市の「妊婦歯科健康診査」に対応しているほか、妊娠中の患者様がリラックスして治療を受けられるよう、以下の配慮を行っています。
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体調に合わせた診療: チェアの背もたれを倒しすぎないよう調整したり、休憩を挟みながら診療します。
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母子手帳の確認: 産婦人科医との連携を意識し、経過を把握した上で治療計画を立てます。
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産後のケアまでサポート: 出産後、忙しくなるママのための時短ケアや、赤ちゃんのフッ素塗布まで、長く寄り添う「かかりつけ医」を目指しています。
妊娠中の口腔ケアは、ママの健康だけでなく、生まれてくる赤ちゃんの未来を守るための「安産祈願」のようなものです。
少しでも不安なこと、気になることがあれば、検診のついでに何でもご相談ください。
まとめ
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妊娠中はホルモンバランスの変化で、歯周病や虫歯のリスクが急増する。
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重度の歯周病は、早産や低体重児出産のリスクを高める可能性がある。
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安定期(妊娠中期)に歯科検診とクリーニングを受けるのがベスト。
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レントゲンや麻酔は、歯科医師の管理下であれば安全。
正しい知識を持ち、適切なケアを行うことで、これらは十分に予防・管理が可能です。
次回は、「シリーズ2:妊娠と歯周病:予防とケア」について、より具体的な自宅でできる予防法や、プロフェッショナルケアの詳細をお話しします。
あなたと、もうすぐ会える赤ちゃんの健康のために。
私たちは帯広の地で、あなたの笑顔を守り続けます。
監修・執筆者プロフィール
【帯広】いしかわ歯科 院長:石川
(歯科医師・歯学博士)
帯広市で20年以上にわたり地域医療に従事。「予防に勝る治療なし」をモットーに、子供から大人まで、科学的根拠に基づいた歯科治療を提供している。
ご予約・お問い合わせ
[電話番号] 0155-35-2442
帯広市西21条南2丁目26-3 Googleマップで見る





